東亞寫眞タイムズ

日蔭の花

歳をとると昔のことばかり思い出していけません。小学5年生の頃、仲良しの級友Mがおりまして、彼は北九州から転校してきた母子家庭の子供でした。Mの家は国鉄の線路脇に建つ古い借家で、周辺は臭気漂うどぶ川に沿って薄汚れた飲み屋と、安普請のボロ家が建ち並ぶドヤ街のような場所でした。母親はホステス。昼間は寝ていて、夕刻から仕事に出かけるという生活。 やや厚ぼったい唇、目のくりっとしたきれいな女が、薄紫のスリップ姿で畳に寝転がり、煙草くわえて週刊誌読んでたのを憶えています。30才くらいだったでしょうか。

 

ある雨の日の下校時、神社で雨宿りしていたMを見つけ、一緒に帰ろうと促したら、「まだ帰れない」と・・・。お客が来るので夕方まで帰ってくるなと母親に言われたそうで、困り切った顔。 せめて家の近くで雨宿りして待ったらどうかと提案した私はMを引っ張って、家の隣の倉庫前で雨宿り。通りかかった近所の若い男が声をかけてきました。二の腕に刺青が見えます。「かあちゃんは黒いのと仕事中だ」と、ニタ笑い。

 

彼は走って家の裏に行き、ベニヤ板を外して中を覗きこみ、私に手招き。 大変な光景が目の前に展開していした。素裸の黒人の大男が、同じく素裸のMの母親に覆いかぶさり、激しく腰を振っています。脚を高く上げ、何やら英語で叫ぶ母親。 驚いたなんてもんじゃありません。 興味津々で覗いていたら、後ろから肩を掴まれました。

 

青のワンピース、猫のような小さい顔の若い女性が雨に濡れて立っています。「あんたら、つまらんもの見てないでうちに来なさい」と、近くの小さくて汚いバーに連れ込まれ、店の奥の小さい部屋(3畳ほど)へ・・・。 お菓子やバナナジュースをもらって、テレビを観ることになりました。 猫嬢は店の準備をしながら泣いています。

でも、5年生の子供には奇異に映るだけ。 彼女も母子家庭で、高校に行かせてもらえず、母親が経営するこの場末の飲み屋を手伝わされている身。当時16歳だったことはずいぶん後に知りました。猫嬢は賢い女の子で、客の一人から薦められ、猛勉強で大検に合格。県立女子大を経て公務員に。

 

 

Mは後に猫嬢と結婚することになります。それはおいといて、Mの母親は彼が中卒で就職し、家を出るとすぐに行方がわからなくなりました。 あまり詳しく語れませんが、生きて再会することは叶いませんでした。Mによると、男と酒なしでは生きて行けない人だったとのことです。

 

Mは同じ地域で部品加工会社を立ち上げて成功。完全に区画整理され、すでにドヤ街ではなくなった場所の一角に家を建て、今も猫嬢とそこで暮らしています。孫が4人いるそうです。Mが持つただ一枚の母親の写真。そこにはセーラー服姿にショートボブ、凛として美しい女学生が両手を前に揃えて写っていました。

 

 

 

 

 




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